芸術新潮という美術誌の特集で
アーティストたちの美味しい食卓 というのがあって、
田山花袋がこう書いているらしい。
「今、ライスカレーをつくるから、一緒に食って行き給え。」
こう言って、国木田君は勝手の方へ立って行った。(中略)
「もう、飯は出来たから、わけはない。」
こう言って国木田君は戻って来た。
大きな皿に炊いた飯を明けて、その中に無造作にカレー粉
を混ぜた奴を、匙で皆なして片端からすくって食ったさまは、
今でも私は忘るることが出来ない。
「旨いな、実際旨い。」こう言って私たちも食った。
田山花袋「丘の上の家」より
『東京の三十年』所収
19歳から3年間、都内のアパート(6畳1間風呂なし)の今にも傾きそうな
部屋に住んでいた。
どんぶりに盛った、具のないチャーハンとか焼きそばとかをおかずに、
もう1つのどんぶりに盛った飯を食うなんてやっていた。
このライスカレーに近かったのが、炊きたての飯にソースをかけた
「ソーライス」。
今でも時々思い出しては、旨そうだ・・・と思う。
国木田独歩はおれよりもちょうど100年上だ。
2100年になる頃、こんな話は、もうあるまい。